ここではライソゾーム病に分類される疾患のうち、代表的な疾患についてご紹介いたします。
ゴーシェ病
グルコシルセラミド β-ガラクトシダーゼの欠損によりグルコセレブロシドの 蓄積が網内系生じる。肝・脾腫が主な症状であるI型、神経症状をきたすII型、その中間型(III型)にわけられる。骨髄にゴーシェ細胞が確認され、酸性フォスファターゼの上昇がある。I型に対しては酵素補充療法が有効である。
ニーマンピック病
スフィンゴミエリナーゼの欠損によるスフィンゴミエリンの蓄積が肝臓、脾臓に認められる。A型では神経症状をきたし、B型では肝・脾腫が主な症状である。C型ではコレステロールの代謝異常で、眼球運動の異常など神経症状をきたす。骨髄に泡沫細胞(ニーマン-ピック細胞)が認められる。
GM1ガングリオシドーシス
β-ガラクトシダーゼの欠損によりガングリオシド、糖タンパクの蓄積が主として中枢神経系におこり、進行性の神経症状を呈する。幼児型、若年型、成人型に分類される。特に成人型では神経症状のジストニアが中心となる。
GM2ガングリオシドーシス
β-ヘキソサミニダーゼの欠損によりGM2-ガングリオシドの蓄積が中枢神経系におこり、進行性の神経症状を呈する。発症時期により乳児型、若年型、成人型に分類される。酵素欠損のパターンにより、大きく3種類に分類される(テイサックス病、サンドホッフ病、ABバリアント)。
クラッベ病
神経線維の脂質でガラクトセレブロシドの分解酵素であるガラクトセレブロシダーゼの欠損により、サイコシンが神経線維に蓄積し、脱髄をきたす神経変性疾患。
異染性白質ジストロフィー
神経線維のスルファチドの分解酵素であるスルファターゼの欠損により、スルファチドが神経線維に蓄積し脱髄をきたす神経変性疾患。
ファブリー病
α-ガラクトシダーゼ Aの欠損によりトリヘキソシルセラミド、ジガラクトシルセラミドが蓄積する。伴性劣性遺伝をとるため患者は主に男子であるが、女性保因者も軽度の症状を呈することがある。皮膚症状(血管腫)・心症状・腎障害・末梢神経障害を呈する。酵素補充療法が計画されている。
ハーラー/シャイエ症候群(ムコ多糖症I型)
α-イズロニダーゼの欠損によりムコ多糖のデルマタン硫酸、ヘパラン硫酸の組織内蓄積、尿中排泄増加を認める。乳児期から顔貌異常、骨変形、関節拘縮がある。重症度の違いにより、ハーラー病から軽症型のシャイエ病まである。酵素補充療法が計画されている。
ハンター症候群(ムコ多糖症II型)
伴性劣性遺伝で患者は男性である。イズロン酸サルファターゼの欠損によるデルマタン硫酸、ヘパラン硫酸の組織内蓄積、尿中排泄の増加を認める。骨変形・関節拘縮などハーラー症候群に類似し、臨床的な鑑別は困難であるが、角膜混濁はない。重症型から軽症型まであり、ムコ多糖症の中では一番多い。酵素補充療法が計画されている。
サンフィリッポ症候群(ムコ多糖症III型)
ヘパラン硫酸を分解する酵素欠損であり4種類あるが臨床症状はほぼ同じで骨変形よりも知的障害が強く現れる。
モルキオ症候群(ムコ多糖症IV型
ケラタン硫酸を分解する酵素の欠損により、ケラタン硫酸の主として骨組織への沈着、尿中排泄増加を認める。著名な脊椎・骨格異常を伴うムコ多糖症であり、中枢神経症状は合併しない。尿中のムコ多糖の分析では診断が困難な場合がある。
マルトー・ラミー症候群(ムコ多糖症VI型)
デルマタン硫酸を分解する酵素欠損症で組織へのデルマタン硫酸の沈着、尿中排泄増加を認める。骨病変はハーラー症候群に似るが、知的障害はきたさない。
Sly病(ムコ多糖症VII型)
ムコ多糖を分解するβーグルクロニダーゼの欠損により、全身に種々のムコ多糖の沈着、尿中排泄増加を来たす疾患である。骨変形・関節拘縮はI型、II型ににる。ムコ多糖の中でも頻度としては低い疾患である。
シアリドーシス
糖タンパクの糖鎖を分解するシアリダーゼの欠損により、種々の臓器にシアル酸含有オリゴ糖が蓄積する疾患であり、乳児型から成人型まで種々の病型がある。
ガラクトシアリドーシス
リソゾーム酵素であるβーガラクトシダーゼ、シアリダーゼと複合体を形成しこれら酵素の安定化に役立つとともに、カルボキシペプチダーゼ活性を持っている。症状的にはβーガラクトシダーゼ欠損症とシアリダーゼ欠損症を合わせもった症状を呈し上記のような名前がついている。これも乳児型から成人型まであり、症状は多彩である。ライソゾーム病の中では日本人に比較的多い。
IーCell病(ムコリピドーシスII型)
位相差顕微鏡で皮膚線維芽細胞を観察すると封入対(Inclusion body)が認められこの名前がついている。蛋白質についている糖鎖を修飾する酵素の欠損症で細胞のゴルジにある糖転移酵素欠損症である。ムコ多糖症の症状を呈するが尿中にムコ多糖を認めないことからムコリピドーシスの名がついた。比較的日本人に多いライソゾーム病である。リンパ球での空胞が診断のきっかけとなることがある。
αーマンノシドーシス
糖蛋白の糖鎖の分解をするαマンノシダーゼの欠損によりマンノース含有糖鎖が蓄積する糖蛋白代謝異常症である。乳児型から成人型まである。
フコシドーシス
糖蛋白の糖鎖の分解をするαフコシダーゼの欠損によりフコース含有糖鎖が蓄積する糖蛋白代謝異常症である。乳児型から成人型まである。
アスパルチルグルコサミン尿症
アスパルチルグルコサミニダーゼの欠損により組織内にアスパルチルグルコサミンが蓄積し、進行性の精神運動発達遅滞をきたす疾患。大頭をきたし脳のMRSでアスパルチック酸のピークが認められる。
神崎病
成人のびまん性被角血管腫をきたす疾患として皮膚科から報告された疾患である。欠損酵素はライソゾームにあるαNアセチルガラクトサミニデースであるが同じ欠損酵素で重篤な中枢神経病変をきたす疾患が報告されており、どのようなメカニズムどこのような違いになるかは不明である。頻度はライソゾーム病の中でも稀である。
ポンペ病(糖原病II型)
グリコーゲンを分解するαグルコシダーゼの欠損により全身の臓器にグリコーゲンの蓄積する疾患で、糖原病II型とも分類されている。乳児型から成人型まである。成人型になるに従い筋弱力が中心となる。酵素補充療法が計画されている。
ウォルマン病
コレステロールエステルを分解する酸性リパーゼの欠損症でコレステロールエステルが主として肝臓に蓄積する。ウォルマン病は重症型で軽いものはコレステロールエステル蓄積症とも呼ばれる。肝脾腫が主症状で、重症型では下痢、発育障害となる。
ダノン病
ライソゾーム膜(LMPII)の異常症で、主な症状は筋弱力である。
遊離シアル酸蓄積症(Salla病)
遊離シアル酸がライソゾームに蓄積する疾患で、ライソゾームから遊離シアル酸を転送する機構の異常である。フィンランドのある地方に多い疾患であり、日本では稀である。
セロイドロリポフスチノーシス
神経変性疾患の症候群であり様々な原因がある。退行変性をきたす疾患でライソゾーム酵素測定で除外された場合この疾患を鑑別診断に入れる必要がある。従来は電子顕微鏡による病理診断がなされていたが、現在では8種以上の遺伝子が単離され遺伝子診断が可能であるが、病型が様々であり困難である。